2013年7月29日月曜日

Fw: 奥浩平と中原素子 from「ガツンと一発」

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>平成25年('13)7月29日 第1873号
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>奥浩平と中原素子
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>平井修一
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>1965年(昭和40)に21歳で命を絶った奥浩平とその遺稿集「青春の墓標」、そして奥浩平が恋していた中原素子について知っていることを書いておきたい。そうしないと小生が死ねば、特に中原素子についての情報は多分永遠に消えてしまうから、些事ながらも書き残す意味はあると思う。
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>時間がないので結論から言えば、1)中原素子の結婚前の姓は「野中」で、名は不明である。2)奥浩平は本名で確かに実在していたが、奥家については、奥浩平の墓の所在、彼が慕っていた兄の紳平の消息などを含めて不明、謎である。
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>なぜ小生が奥浩平に関心を寄せるかという話から始めたい。奇妙というしかない縁なのだ。
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>■奥浩平は1943年10月9日 - 1965年3月6日。東京生まれ。1959年、都立青山高校に入学。1960年、樺美智子の死に触発されて安保闘争に参加する。1963年横浜市立大学文理学部に入学。7月に中核派に加盟し、原潜寄港阻止闘争、日韓会談反対闘争などに参加する。
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>小生は奥浩平から6年遅れて1969年に横浜市立大学商学部に入学。2年生の1970年に田中正司教授のマルクス主義経済学を専攻し、マルクスの「経済学・哲学草稿」を研究した。そのころに小生は同好会として「現代史研究会」を立ち上げたのだが、奥浩平は1964年の日記にこう書いているのである。
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><横浜市立大学では一人、商学部・田中正司助教授が講義のテキストとして「経済学・哲学草稿」を用い、意欲的に研究されている。・・・昨年夏、現代史研究会の一年生五名によって合宿研究会がもたれた>
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>小生は奥浩平の名は大学入学後に知ってはいたが、「青春の墓標」を読んだのは1971年秋、獄中である。その前に小生は田中正司先生を知り、現代史研究会を設立している。不思議な縁である。
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>■奥浩平は1963年7月に中核派に加盟した。小生は1970年4月から中核派と行動を共にしたが、奥浩平のことなどまったく意識にはなかった。友達から「中核派の4.28沖縄奪還闘争の集会に行かないか」と誘われたから行っただけである。
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>当時はやたらと集会やデモが多かったから、過去のことはほとんど話題にならず、横浜市大でも奥浩平を実際に見知っているのはごく一部の教授、助教授ぐらいで、ほぼ忘れられた存在だった。彼の場合は「政治利用できる死」ではないからで、噂話として「奥浩平は開学以来3本の指に数えられる俊才だった」「なかなかハンサムだった」というのが聞こえて来るくらいだった。
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>奥浩平と同じ大学、同じ先生を評価し、同名のサークルにかかわり、同じ中核派と言っても、それだけなら「ふーん、そういうこともあるか」で終わりなのだが、小生は図らずも中原素子を見ることになったから、「うーん、これは何か縁があるのか」と思わざるを得ない。
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>■奥浩平は1965年2月、羽田で行われた椎名悦三郎外相訪韓阻止闘争で警官隊と衝突し、警棒で鼻骨を砕かれ負傷、入院。退院後の3月6日、自宅で大量の睡眠薬を服用して自殺した。
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>小生は6年後の1971年9月16日に逮捕され、同年12月21日、保釈。マルクス主義にも疑問を感じていたし、「もうすべては終わったのだ」という厭世観から自殺ばかりを考えていたが、薬が手に入らなかったこと、リストカットはずいぶん痛そうだということ、首つりは尿を漏らすことなどで決断がつかなかった。両親に迷惑をかけたので72年の1年間は家業の食料品店を無給で手伝っていたが、73年からは自立を目指した。その頃は貯金が底をつき、仕事を探さなければならなかったこともある。
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>以下は小生のメモから——
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>同志Sの紹介で小生が初めて中核派系の救援連絡センター(東京・虎ノ門)を訪れたのは1973年正月の4日である。その日から小生はその事務所に通い始め、自らを含めた三里塚裁判の被告に対する連絡事務や、勾留中の同志に対する接見や差し入れ、さらにデモや集会の際に対立セクトの襲撃に備える情報活動「レポ」などを行った。といっても小生が東急東横線学芸大学駅前にある「有限会社ノナカ」という建築金物店に就職するまでのわずか2カ月ほどでしかなかった。
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>ノナカという店は、救援連絡センターの幹部、三浦暉(あきら)の紹介によるものだった。三浦は「清掃局の仕事はどうか。朝が早いが、その分早く切り上げられ、夕方から活動ができる」と説明した。Sも「清掃局の仕事はだいたい3時半には終わるから、その後に被告団の事務局を手伝ってくれればいいよ」と賛成した。小生も清掃局の仕事に決めかけていたが、数日すると三浦はノナカに勤めてはどうかと勧めてきた。
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>「ノナカは僕の友達がやっている店でね、そこに君が勤めているといろいろ彼と連絡が取りやすく都合がよいので、そうしてくれ」という。小生はどこに勤めるかについて大して興味はなかったので、そうしますと答えた。
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>小生は73年3月からノナカに勤め始めた。家族企業で、三浦の友人である野中俊夫が店を仕切っていたが、一線を引いたとはいえ頑固な父親があれこれ指示し、口うるさい母親も手伝い、妹は経理を担当していた。従業員は小生と詩人・吉田修の2人である。工務店など安定した得意先がいくつもあり、小規模経営ながら精いっぱいに繁盛していた。小生は店員兼配達である。
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>後に小生は野中俊夫から打ち明けられたが、彼は1968年10.21新宿騒乱事件の被告であり、小生と同様、保釈中の身だった。中核派のシンパであり、三浦個人へ定期的にカンパをしているのみならず、大きな闘争のたびに自家用車を提供し、かつ商売で扱うヘルメットを惜し気もなくカンパするという、中核派にとっても大切なシンパであった。
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>ある日、配達中のトラックの中で野中俊夫が急に「平井君、横浜市立大学だったよね、『青春の墓標』読んだ?」と聞いた。小生が「読んだ」と答えると、「あの中に出てくる中原素子って、僕の姉だよ」と言った。
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>しばらくしてから小生は、たまたま子供を連れてノナカに里帰りしている「中原素子」をちらと見た。知的で美しいが、ちょっと寂しげな女性だった。小生は「奥浩平が彼女の心をとらえていたら、あるいは中原素子が浩平の愛にこたえていたら、浩平は死を選ばなかったろう」と、思っても仕方がないことや、「彼女はどんな気持ちで暮らしているのだろう」などと考えたりした。
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>野中俊夫によると、ばりばりの社会党員であった父親は、素子の考えや行動をことあるごとにたしなめ、言葉で説得できないと、ついには大きな算盤で彼女の頭を殴り、駒がばらばらと床に散ったこともあったという。
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>小生はノナカに勤めたことに何か縁があったような気がした。中原素子もその弟も、そして小生らも、何かを押えこむことによって、かろうじて生きているような感じだった・・・
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>■「青春の墓標」の前書きと後書きは兄の奥紳平が書いているが、プロの作家並に非常に文章がうまいし、中核派のことをよく知っているので、奥紳平は仮名であり、もしかしたら中核派の大幹部ではないかと小生には思われた。中核派創設者の一人である北小路敏がこの本に文章を寄せているが、奥紳平と北小路は同志ではなかったか。奥紳平の人物およびその後については全く分からず、そのために「奥浩平自体も仮名なのではないか」と小生は疑問に思っていたのである。
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>しかし、神奈川大学経営学部教授の常石敬一がこう証言している。
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><私は昭和18年生まれで、奥浩平と目黒区立6中で同級生だったんです。奥は勉強ができたし、いい男だから女子にもモテたが、ある少女が自殺したことが、奥浩平には恋愛についてのトラウマになっていた。私は大学は都立大で、奥浩平は横浜市立大学ですが、期せずして同じ白ヘルの中核派でした>
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>奥浩平も中原素子も実在した。そして小生も遅ればせながら同時代の空気を吸っていたのだから、以上のような縁ができるのも奇蹟とは言えまい。それでも不思議な感じはしている。(2013/07/28)
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